一般的な俗説として、「普段しゃべるのが苦手な人でもお酒を飲むと饒舌になり、人と話せるようになる」というものがありますが、これは本当なのでしょうか。また、本当だとして、飲めば飲むほどその効果は高まるのでしょうか。この記事では問いに対し科学的に考察してみます。
「お酒を飲むとトークがうまくなる」は本当か
心理学や社会心理学、生理学、神経科学などのいくつかの科学的な研究によれば、アルコールは抑制系の神経伝達を緩和し、リラックス効果や親近感を高めることが知られています。
俗説とはいえこの点は概ね合っているようです。実際にお酒の場では普段あまり話せない人でも会話ができたり、一緒にお酒を飲むことで距離が一気に縮まることも珍しくないため、納得感があります。
実際、普段あまり話さない人だったのに一緒に飲んだら急に仲良くなった、仲良くなりすぎて男女の仲になってしまった、という経験がある方も少なくないのではないでしょうか。
飲めば飲むほどトーク力が高まるのか
では、飲み会や合コンではお酒をたくさん飲んだ方が良いのでしょうか。お酒を飲めば飲むほどトーク力が高まり社交的になれるのでしょうか。
これは違っていて、アルコールの過剰摂取は自己抑制能力の低下や判断力の喪失、言語能力や注意力の低下、自己認識能力の低下(自分のトークを実際以上に良いと誤評価する)ことが知られています。
つまり、適度な飲酒はトーク力やコミュ力、親近感を高める一方で、飲み過ぎてしまうと自分では面白いトークをしているつもりなのに周りから見ればスベっている、という状態に陥りやすいわけです。
「適量」って何杯?
ではここでいう適量とはどれくらいでしょうか。
生理学的には、体重や性別によっても異なりますが、概ね血中アルコール濃度が0.03~0.06%程度が「適量」とされていますが、それがどれくらいなのか我々一般人にはわかりませんし、飲み会や合コン中に血液検査をすることも当然できません。
このテーマについてわかりやすい研究を行ってくれたのがコロラド大学のピーター・マグロー教授です。
実験ではグループを
- ノンアルコール
- 適量(例:ビール1~2杯程度、個人差あり)
- 過剰(例:ビール3杯以上、個人差あり)
のグループに分け、
- 流暢性:言葉がどれだけスムーズに出るか
- 内容の多様性:話の幅や語彙の豊富さ
- 社交性:他者への適応や親しみやすさ
といった要素を元に、第三者がトークの質を評価しました。
その結果過剰摂取のグループはトークの面白さについての自己評価と客観的な評価が大きくズレていた、というものなのですが、この実験で前提としている例を見ると、たかだかビール(アルコール度数5%程度)であっても、飲酒によってトーク力が高まるのはせいぜい1杯か2杯。
3杯以上飲むと過剰摂取になるケースが多いことがわかります。
体重や性別によって差が出るので体重100kgの男性なら3杯目までは大丈夫なのかもしれませんが、目安としてはこのくらいということです。また、個人差もありますので特別にアルコールが強い人はこの限りではない場合もあります。
それでも4~5杯以上飲んでしまうとスベる(しかも自分では気付けない)可能性が高いため、飲み会や合コンでお酒の力を借りたい、という場合でも、できれば1~2杯までに留めておくのがいいでしょう。
特に好きな人・気になる人に良く思われたい、と思ってお酒の力を借りているのに、3杯以上飲んでスベってしまっては悲しことになります。